ドン・マクリーン「アンド・アイ・ラブ・ユー・ソー」/Album「タペストリー」
D-のビッグネームが続きましたので、この辺で少しマイナーなアーチストをお勧めしましょう。今回は1970年代から80年代にかけて、さわやかな風のような美声を聴かせてくれた、ドン・マクリーンです。
彼は1971年のセカンドアルバムからのシングル「アメリカン・パイ」を大ヒットさせ、一般的には「アメリカン・ポップス史上屈指の一発屋」のように扱われていますが、本来はギター一本で、その美声を活かし地味ですが優しさにあふれた曲を切々と歌う「弾き語り」スタイルのフォーク・シンガーです。
彼は1945年、ニューヨーク生まれ。50~60年代のロックンロールの黎明期にはバディ・ホリーに夢中だったとのこと。高校卒業後は地元のクラブでフォーク歌手として歌いはじめ、ピート・シーガーのフォーク・リバイバル運動に参加した後、1970年にこのアルバムでデビューしました。
特にヒットはしませんでしたが、アコースティック・ギターをメインにしたサウンドと優しい語り口の佳曲が並び、評価の高いアルバムです。
おすすめの曲
A1 Castle in The Air
1981年に再発売されスマッシュヒットになった、さわやかなイメージの曲。
B1 Tapestry
キャロル・キングとはまた違う、ギター弾き語りスタイルのフォーク・ソング。
B2 And I Love You So
これは多くの歌手にカバーされた名曲。特に73年にベテラン歌手のペリー・コモが歌って全米29位のスマッシュヒットになっています。あのエルビス・プレスリーもカバーしています。
アメリカン・パイについて
翌1971年のセカンドアルバムからシングルカットされたこの曲は、ジャケットのインパクトやアレンジの良さもあってヒットし、72年の1月15日から4週連続全米NO.1になりました。
8分を超える長尺の曲だったため、シングル盤のA面は途中でフェイドアウト、B面はフェイドインする構成で、それぞれ「パート1、パート2」と名付けられていました。
またこの曲は当時から「難解な歌詞」が話題となっていました。いかにも長年かけて練り上げられたような比喩や隠喩が多く使われています。中学生の頃、私は歌詞の意味をなんとなく理解していましたが、「ミス・アメリカン・パイ」って、どんな女性(女性象)なのだろう・・・と妄想していました。(これまで何度となくいろんな方が解説していますので、ここで敢えては書きませんが)
彼が13歳の時、大好きだったバディ・ホリーやリッチー・ヘブンスが同じ飛行機の事故で亡くなったことを知り、大きなショックを受けました。彼はその日を自分の「音楽が死んだ日」として記憶し、長い年月にわたって温め、たくさんの思い入れと歌詞の推敲を重ねて、この曲を作り上げたのでしょう。
バックにピアノやドラム、ベースなどが入り、コーラスも効かせたロックバンド然とした軽快なリズムで、本来の彼のスタイルからすればかなり異端のアレンジです。まるでサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」のアイデアを踏襲したような構成ですが、それはサウンドそのもので昔のアーティスト達へのトリビュートを表現していたのかもしれません。
余談ですが1(私のアメリカ旅行での"American Pie"経験)
1999年、私は当時勤めていた会社の主催する「アメリカ市場視察旅行」に参加しました。LAの街やショッピングセンター等を見学した後ラスベガスに立ち寄ったのですが、泊まったホテル「ニューヨーク・ニューヨーク」の1階のラウンジで、ピアノの弾き語りをしていた地元(たぶん)の歌手がこの曲を歌い始めるや、店内の客全員が歌に参加し、最終的に店全体を震わせる大合唱になって行くのを目撃しました。
当時でも20年以上前のヒット曲だったわけですが、私は「この曲で今でもこんなに盛り上がるのか~。日本でもヒットしたけど、日本ではありえない光景。さすがは本場アメリカだな」と驚いたものです。
ちなみにドン・マクリーン本人は、後年あるインタビューでこの曲のことを「働かなくて良くなった曲」と表現していました。よほどの収入につながったのでしょう。
貧乏サラリーマンの私は、ただ「うらやましいな~」と思いましたが、彼はその後も活動を続け、2005年まで30年以上に渡り、15枚以上のアルバムを発表しています。
CDを入手するなら
私が現在持っているのは先ほどのLP”Tapestry”と、このベスト盤CDです。
おすすめの曲
どれもおすすめの名曲揃いです。これ1枚あれば、彼の素敵なメロディや歌詞の世界を一通りすべて抑えておくことができます。
M11 Vincent
生前、世間的評価を得られなかった薄幸の画家、ビンセント・ヴァン・ゴッホに捧げた曲。沁みます。
M9 Wonderful Baby
もちろんAmerican Pieも大好きですが、私が最も好きな曲。
この曲は、往年のハリウッドのミュージカルスターでタップダンスの巨匠だったフレッド・アステアを思って書いたとのこと。のちにアステア本人もレコーディングしています。
曲はギター一本の弾き語りからスタートしますが、しだいにコーラスやストリングス、ブラスセクションまで入って、スイングジャズ風な展開になって行きます。
余談ですが2
これをプロデュースしているのが、元アトランティックレコードのプロデューサーだった、ジョエル・ドーン氏。彼は60年代、多くのJAZZのレコードで活躍し、70年代以降はベット・ミドラーのデビューアルバムでバリー・マニロウと共同プロデューサーを務め、ロバータ・フラックの「愛は面影の中に」や「優しく歌って」でグラミー賞も受賞しています。
ちなみに、ロバータ・フラックが「優しく歌って:Killing Me Softry With His Song」で歌っている「彼」とは、ドン・マクリーンのことなのだそうです。
いい曲、良い歌手に出会うと、さらにいい曲が出来上がる。そんなリレーの典型ですね。いい話だな。自分もそのリレーのバトンを持ちたいものです。
ではまた。