デヴィッド・ボウイ「月世界の白昼夢」/album「ジギー・スターダスト」
D-で始まる大スターと言えば、デヴィッド・ボウイですね。代表的なアルバムは、やはりこれでしょう。シングルヒットは「スターマン」でしたが、私が一番の好きな曲は”Moonage Daydream”です。
私がボウイを好きになったきっかけ
高校生の時、クラスメイトに「デヴィッド・ボウイ小僧」S君がいて、その彼が「すごく良いからぜひ聴いてくれ」と、なかば強引にレコードを貸してくれました。当時から私はあまりイギリスのロックに興味は無く、更にジャケットの写真を見て「なんか安っぽい不良かな~」と、良い印象を持ちませんでしたが、聴きこんでみて良さが分かりました。
当時、Chicago小僧でブラス大好き「アメリカン・ニューロック最高」と思っていた私はこれを聴いて「ギターバンドのベタなロックンロールもいいもんだな・・・」と思ったのです。
もちろんボウイ流のロックンロールは決して素直なものではなく、王道と言うよりはかなり「クセが強い」変化球ではありますが、私にロックンロールというジャンルの良さを教えてくれたのは、S君とボウイだった。そう言っていいでしょう。(偉そうですいません)
紆余曲折の「天才」
ボウイは1947年生まれ。64年にデビューし、69年の大ヒット”Space Oddity”以来、2016年に亡くなるまで、ずっと現役を貫いたアーティストです。
世界には「昔取った杵柄(きねづか)=ウン十年前のヒット曲」だけで新曲を発表せず(できず)小規模なツアー(ドサ廻り)で稼いでいるアーテイストがたくさんいる中、50年以上に渡りニューアルバムを発表し続け、新曲を出す活動を続けていました。その意味でずっと「現役」を貫いた、稀有なアーティストの一人です。
若い頃のグラム・ロック時代、アメリカに渡ったプラスティック・ソウル/ファンク時代、ヨーロッパに戻ったベルリン時代、バンドの一員となって自分を見つめ直したティン・マシーン時代、そしてソロに戻った晩年とありますが、その中で最も輝いていたのは、やはり才気にあふれたグラム・ロック時代でしょうか。私が最も好きだった頃です。
アルバムの魅力
このアルバムは1972年に発表されました。原題は“The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars”なのですが、当時の邦題は「屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群れ」というものでした。よくもまあ、素直に直訳したものですね。
レコード会社の担当者にもう少し英語力があって、更にもう少し中身を理解していれば、Ziggy Stardust を「屈折する星屑」とは訳さなかったと思うのですが、なんだか、担当者が英語ができないので、音楽は判らないけど英語ができる事務員さんに訳させたものをそのまま使った・・・みたいな気がします。敢えてわざと機械的な直訳にしたのかもしれませんが。
もっとも当時の日本全体(または洋楽レーベルや洋楽マスコミ、およびそのファンである若者達)の英語力なんて、こんなものでしたが。
もう少し中身を知って意訳すれば「ジギー・スターダスト&スパイダース・フロム・マーズの栄光と挫折」という感じかな。あ、でもこれじゃあ分かりやす過ぎて注目されないか。
彼の作品の中で最も評価/人気が高い理由は、収められている曲それぞれの完成度が極めて高いことはもちろんですが、それとともにアルバム全体が、映画かミュージカルのサントラ盤のような一つの物語として作られた、とても完成度の高い「トータルアルバム」であるということでしょう。
”Ziggy Stardust”という、おそらく火星生まれの男が、地球滅亡まであと5年と迫っていることを知らない無知な地球人に、そのことをスターマン(=神または造物主)の言葉として伝えるため、地球に降り立ちロックスターになる。
しかし名声を手に入れた男は、次第にエゴを強め堕落し絶望し精神を病んで追い詰められ、バックバンドである「火星から来た蜘蛛達」は解散、ついに男はステージ上で自殺する・・・という物語です。
お勧めの曲
M2 Soul Love
タイトル通り、ソウル・ミュージックをイメージするサウンドです。後年、彼がアメリカに渡り”Young Americans”を歌うことになる兆しが、すでにここにあります。
M3 Moonage Daydream (月世界の白昼夢)
彼の右腕であるミック・ロンソンのギターが、ここでも広大な宇宙空間を表現してくれます。間奏のフレーズがとても印象的で、癖になる一曲です。
M8 Hang On To Youself
M10 Suffragette City
ノリのいいロックンロールナンバーです。
他にお勧めのアルバム①
1970年 世界を売った男(”The Man Who Sold The World”)
これはZiggy 誕生「前」の、とても重要なアルバムです。トータル性は希薄ですが、既に新しいキャラクターへの試行錯誤が始まっているところが感じられます。
お勧めの曲
M1 円軌道の幅(Width Of A Circle)←これも、よくぞ付けた邦題です。
8分を超える大作。これもミック・ロンソンによる「宇宙空間」イメージの表現が素晴らしい! なんとなく「真空で無重力な感じ」が出ている気がします。
M3 Black Country Rock
ノリのいいミディアム・ナンバー。ボウイがマーク・ボランっぽいスキャットを歌う場面があります。
M8 The Man Who Sold The World
当時、シンセサイザーという楽器は出始めで、まだVCO(音源)が1個しかなく単音楽器でした。そのたった1音の単音楽器を、多重録音するでもなく白玉で使うアマチュアっぽいセンスに、思わずニヤリとしてしまいます。ベースラインも印象的。
他にお勧めのアルバム②
1973年 アラジン・セイン (私が最も好きなアルバムです!)
ボウイがZiggyの次に世に出したキャラクターが、このアラジン・セインです。但しこの名前には「狂った若者(ア・ラッド・インセイン)」という意味もあり、どんなコスチュームなのかが不明の未完成のキャラクターだったこともあったので、Ziggyが変身したものという位置づけなのかもしれません。
このアルバムから、ピアニストのマイク・ガーソンがバンドに加入。これまでアコースティック12弦やエレキギター中心だったサウンドが大きく変化し、クラシックやJAZZの要素が大幅に導入され、表現の幅が大きく広がりました。
そういう意味では、サウンド面で大きなターニング・ポイントになったアルバムだと思います。(音楽雑誌にそう書かれたのを読んだことはありませんが、私はそう思っています)
お勧めの曲
M1 Watch That Man
これも「ソウル化」を感じる曲です。
M2 Aladdin Sane
マイク・ガーソンを大フィーチャーした、前衛音楽スレスレの癖になる曲。
M5 Crached Acter(気のふれた男優)
またもやソウルっぽいシャッフル・ナンバーです。
M6 Time
再びマイク・ガーソンの独壇場。シュールで実験演劇的な香りのする一曲。ボウイがパントマイムをしながら歌う場面が想像できます。
M7 The Prettiest Star
ボウイのSAXが伴奏の要になっている曲。ハンキー・ドリーの流れを組む耽美的なメロディです。
M8 Let’s Spend The Night Together
ストーンズの「夜をぶっ飛ばせ」のカバー。もの凄い疾走感と爆発感は、マイク・ガーソンの大手柄!爽快です。
M9 The Jean Genie
ミック・ロンソンが「俺を忘れるな!」と主張しているようなブギーです。粘っこくていいノリです。
「デビッド・ボウイと言えばジギー・スターダスト」という定番のイメージがあり、また彼には後年の「ベルリン3部作」も有名ですが、私はこの3枚のアルバムは、「グラムロック時代の3部作」と言っていいと確信しています。
後年の彼はより哲学的になり、死の直前の数枚のアルバムは、まるで大学教授のような密度の濃い玄人受けする内容になりましたが、ポップミュージックとしてのエンタテインメント(プラスティック・ソウルやファンク時代がその最たるものでしたが)からは、だいぶ離れたものになってしまいました。
一番アイデアやギミックが満載で、彼がアーティストとして最も輝いていたのは、やはりこの3部作だったと思います。もはや「古典」なのかもしれませんが、今でも愛聴しています。聴いたことがない方には、ぜひお勧めしたいです。
ではまた。