シカゴ「グッドバイ」/Album「シカゴⅤ」
去る7月4日:Fourth of julyはアメリカ独立記念日、そして土曜日でした。となれば、♩Saturday in the park~ということで、私が最も多くの年月にわたって曲を聴き続けているバンド、Chicagoをお勧めしたいと思います。(本当はタイムリーにアップしたかったんですが、入院手術で忙しく遅れてしまいました)
彼らは1966年の結成以来54年、いまだ現役で毎年全米ツアーを行うモンスターバンドであり、デビュー以来、今までコンピレーションも含め40枚以上のアルバムを発表しています。
あくまでも私の好みでしかありませんが、数多い作品の中から一番おすすめしたい曲・一番お勧めしたいアルバムと言えば、悩みに悩んだ末、前掲のサタデイ・イン・ザ・パークが収録されている”ChicagoⅤ”と、その7曲目にあるひたすらクールな“Goodbye”をお勧めします。
その前に、ちょっと寄り道(子供の頃の思い出)
①中学時代のChicagoの人気
私は1958年生まれですが、Chicagoがデビューしたのが1969年、そしてあの”25 or 6 to 4(長い夜)”がヒットしたのが1970年、私が中学に入学した年でした。
当時、中学校でもChicagoは大人気。同級生の男子が何人もクラブ活動の「吹奏楽部」に入部し、その結果、吹奏楽部は実質「ブラスロックバンド部(ほぼChicago部)」となり、文化祭の時には音楽教室の壁に「アット・カーネギーホール」の付録の全紙ポスターを貼り、それをバックに彼らの曲を演奏して、大好評を博していました。
そんな当時の友人たちや現在の比較的高齢のシカゴファンからすれば、一番好きな曲は”25 or 6 to 4(長い夜)”に決まりだと思います。ただ、ヒネクレ者の私はそうではありません。
②最初に買った、4曲入りLPシングル(珍品かな?)
これはいったい何かと言うと、2枚目のアルバム「‘Chicago’(シカゴと23の誓い)」を元に、17Cmサイズのシングル盤を、通常の45回転ではなく33 1/2回転にして録音可能時間を稼ぎ、4曲だけ収録したアナログレコードです。23曲からわずか4曲取り出しただけなので「Chicagoの誓い」とタイトルされています。
LPが買えない貧乏な子供用に、当時はこういうものが結構出回っていました。
小学校5年から洋楽に目覚めた私は、当時6石ラジオ(昔は真空管の「管」に対してトランジスタを「石」と言いました。6石とは「6個も入っている」ということ)でAM放送を聴いていましたが、学校の音楽室で聴くようないい音で、ステレオで聴きたいという欲求から、小遣いを半年以上節約し、秋葉原の電気屋さんに行ってVictorのレコードプレーヤー専用機(約6500円位)を買ってきました。音はそれほど良くありませんでしたが、とにかく「ステレオ」だったのがうれしかった。
しかし機械にお金を使ってしまったので、LPレコードを買う資金が残っていません。そこで手を出したのが、600円のこれです。
大好きなMake Me Smileが入っていたので買いました。それまで家にはモノラルの「電蓄(電気蓄音機という)」しかなかったので、左右2台のスピーカーの間を、ドラムのフィル音が右から左へ流れただけで「あ~ステレオだ~」と感動していましたね。
③最初に買った、Chicagoのアルバム「栄光のChicago」
いつまでも4曲だけでは辛いので、翌年、お年玉で買ったのがこちら。これは、彼らの初来日の記念盤として、日本のCBS/SONYレーベルで独自に企画・デザインし発売したものです。いかにもアメリカンなジャケットじゃないですか~。ChicagoⅢのジャケットのボロボロの旗の原型にも思えて、なかなか粋です。定価¥2100。
内容は1st~3rdまでのLPからのヒット曲を12曲集めた初期のベストアルバムとなっています。これは本当にレコードが擦り切れるまで聴き倒しました。
④私にとってのChicagoの魅力
私がシカゴを意識したのは「長い夜」の前にヒットした”Make Me Smile(僕らに微笑みを)”であり、完全にファンになったのは、翌年にデビューアルバムから再発されヒットした”Questions67/68”でした。
なぜそうなのかと言えば、私はそもそも、多くの男子が魅力を感じると思われる「スリル・スピード・サスペンス」にはあまり興味がありません。だからRock Musicというカテゴリーそのものにあまり思い入れがありませんでした。
それよりも興味が沸くのは、洋楽における(日本の歌謡曲・フォークには全くない)POPで明るいメロディと様々な楽器によるアンサンブル、豪華なアレンジとハーモニーです。
例えば”Make Me Smile”の場合、歌詞の部分のメロディだけを聞くと、そう大した曲ではありません。ためしにギターかピアノでコードを弾いてゆっくり歌ってみると、マイナーでブルーな失恋を歌ったただの暗い曲にすぎません。
ところが、これがメンバーでトロンボーン担当のJames Pankowさんのものすごいアレンジにより、とんでもなくきらびやかで華麗な「ハレの日」の曲に代わってしまうのです。(実際、この曲はコンサートのオープニングに使われることがしばしばです)
逆に言えば、派手なオープニングでブラスが響き、ノリのいいリズムで盛り上がって、何が始まるのかな?とわくわく聞いていて、ついに曲が始まると、「あれっ?地味・・・」と言った具合。でもその「落差」がまた「癖」になるのです。
⑤「これはRockなのか?」
私はもともと、ビートルズはあまり好きではありません。良いメロディがあることは意識していたのですが、サウンドのチープさが嫌で聴く気になれませんでした。
リッケンバッカーのギターのガチャガチャしたトーン、John とPaulの微妙に音程が外れた高音域でのコーラスも気持ちが悪かったし、当時のアンプや機材の未発達もあって全体として低音不足の音質が物足りません(特に初期)。
Rock Musicはビートルズを筆頭に、エレキギターがサウンドの主体です。ところがChicagoのアルバムでは、ブラスが3管入って盛大に響かせる、それまでのRockの常識を破った本当に革新的な音、そう極めて「Hi-Fi」な音がしていました。「これは今までのRockとは違う、New Rockなんだ」と思いましたね。
⑥ベースの音量がでかい!
ほとんどの曲で聴こえるのはドラムとベースとブラスばかり。ギターはボーカルの無い間奏の時しか聞こえません。しかしいざギターが前に出て来ると、ハチャメチャな暴走特急のようなソロが痛快です。
ボーカルは音域の違うボーカリストが3人いて、パートを分担してハモったり、曲を歌い分けている。そして3管ブラスの絶妙なアンサンブルとJAZZフレーバーあふれるソロ、下支えするトロンボーンの重厚な低音!
アルバム全体はと言えば、デビュー以来3枚連続2枚組LPという物量作戦。と言っても冗長ではなく、とにかくアイデアの洪水。どの曲も実験性にあふれていて、アルバムはまるで実験室の中で、目の前で未知の薬品の調合実験を見ているような、そこに臨場しているようなイメージで、煙は出るわ火花は散るわ新しい物質は生まれるわで、驚きと興奮の連続です。
当時LP2枚組は3600円。親からもらっていた小遣いが月に1000~2000円くらいでしたから、貧乏な家の子供の乏しい小遣いではとても手が出ません。でもそのゴージャス感、デラックス感が、「あこがれのアメリカ」の象徴の一つだったんですね。
Beatles由来のイギリス発祥のRockが、なんだか貧相なものに思え「アメリカはこうなんだ! 元の豊かさが違うな~」と感動しながら聴いていました。
Chicgo Ⅴ の魅力(やっと本題です)
そんな彼らも初期の爆発的な迸りを4枚組LP「ライブ・アット・カーネギーホール」(当時6800円)で一段落させ、その後ようやく1枚もののアルバムを発表しました。それが”ChicagoⅤ”です。
これはJAZZやブルースに根ざし政治的メッセージとともにヘビィな演奏を展開するブラス・ロック・バンドであったChicagoが、POP志向のバンドへと変貌していくターニングポイントとなったアルバムであり、初の全米No.1となり、更に以後Ⅺまでの7枚が連続No.1となるスタートの1枚でもあります。
お勧めの曲(全曲おススメですが・・・)
M4~M5 Dialog part 1 & 2
ラジカルな政治運動に参加している学生とノンポリ(これも死語ですね。ノンポリシーということ)の学生との会話(ダイアログ)という歌詞。そんな会話がこんないいメロディとウキウキするリズムに乗って歌われることへの違和感がクセになる1曲です。
メンバーがカーネギーホールより演奏も録音もよかったと絶賛した、ライブインジャパンで、オープニングの曲になりました。
M7 Saturday in the Park
7月4日、アメリカ独立記念日のセントラルパークの情景を歌ったヒット曲。大作主義・長時間主義・濃密アレンジ主義の彼らにしては、ずいぶんシンプルにコンパクトにまとめた印象。コード進行にキャロルキングの影響も感じられます。(Billboard 3位)
M8 State of the Union
何と、アメリカ大統領の「一般教書演説」をテーマにした曲。日本じゃ絶対ありえないですよね。当時彼らは大統領選挙において、共和党のニクソン氏の対向である民主党のマクガバン氏を応援していました。その落選の失意が元なのか、かなり過激に「システムを壊せ」と歌います。サウンドで「怒り」を表現しているような曲。やっぱりRockしています。
M9 Goodbye
変拍子を多用したJAZZ/フュージョンナンバー。重厚なブラスアンサンブルと躍動するベースラインが全体を引っ張り、その上にPeter Ceteraの爽やかなボーカルと浮遊感のある歌詞・メロディが乗って展開します。
歌詞そのものは「高く舞い上がり空に触れ・・・」と、飛行する描写なのですが、私のイメージでは、急行列車が大都市のターミナル駅を出発し、大陸横断を目指してひたすら走り続けて行くような光景が展開します。
またひたすら何かを探し続けて咆哮するトランペットのソロにも心を奪われます。「クラシックに根差していないプログレ」と言っても良いかもしれません。私は個人的に、これが彼らのNO.1ソングです。
もちろん他のChicagoファンの皆さんからは、Vやシングル化もされなかった地味な’Goodbye’を最高と位置づけるのは、多くの異論が出ると思いますが、これは私の趣味なのでご勘弁ください。
その後~現代のChicago
初期の頃、ラジカルな政治的メッセージと緻密でエモーショナルな演奏力で、若者を強力に引き付けた時代、POP路線に舵を切り、出すアルバムが連続して全米1位になった時代、リーダーでギターのテリーキャスの死によって訪れた低迷期、パワーバラード・バンドとして復活を遂げた時代、ブームが去ったその後の低迷期、そして現在の、往年のヒット曲やビッグバンドJAZZ、クリスマスなどの多彩なテーマをちりばめて進行する“国民的バンドの定番曲・安心ツアー”路線・・・。
彼らはその長い歴史の中で音楽性を変化させ続け、メンバーチェンジも何度も行ってきました。ですから、初期のハードロック・ブルースロック的な音楽性に限定したファンもいれば、中期以降のパワーバラード時代のファンもいるし、ジャズ・バンド的な部分でのファンもおられることでしょう。
彼らにはそれだけの歴史があります。それは「輝かしい」と見る人がいる反面、「紆余曲折」「落ちぶれた」「とっくに終わっている」と感じる人もいるでしょう。
それでも彼らは、今もメンバーチェンジを繰り返しながらツアーを続け、ジョイントで連れてきた他のバンド(ビーチボーイズ、EW&F、ドゥービーブラザース、ヒューイルイス&ザ・ニュース、REOスピードワゴン等)といっしょになって、アンコールでは今でも「長い夜」を、思い入れたっぷり・お約束たっぷりに演奏し続けているのです。
その間、少しづつ新曲も発表し続けながら。
それは創業50年を超えた老舗企業の歴史を見ているようです。さしずめキーボードのRobert Lammさんが社長かな。
そろそろ終焉も近いと思うけれど、同じ時代を共有してきたファンとしては、行けるところまで頑張ってほしいです。
長文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
ではまた。