ベット・ミドラー「踊ろよベイビー」
B-から始まる名前のアーティスト、2組目はBette Midlerを推させていただきます。
これは1972年、彼女が27歳の時のメジャーデビューアルバムです。タイトルは「神がかってるミスM」。音楽性の豊かさ、歌唱力・演技力の奥深さ、下世話な猥雑(エロ)さ、どれをとっても天下一品です。
アルバムの1曲目、「踊ろよベイビー」は全米チャート17位、アルバムはプラチナディスクになっています。
そしてこの曲には、前回書きましたが、まだスタジオミュージシャンだったBarry Manilowがアレンジャー/コンダクター/ピアニストとして参加。Barryをリーダーとするコンボには、なんと「JAZZ BASSの巨人」Ron Carterが、これまたなんと、エレキベースを弾いて参加しているのです。当時中学生だった私は、このベースのフレーズ一発で心を奪われてしまいました。
他にもパーカッションにRalf Mcdonald、ホーン&ストリングスアレンジにフィリー・ソウルの仕掛け人Tom Bell、バックコーラスにホイットニーの母、Cissy Houstonがいたりと、贅沢三昧!
Barryの新しい解釈と大胆なアレンジで、軽いタッチのポップ・ロックだったこの曲が、驚くべきしっとり(ねっとり?)したトーチ・ソングに変身しています。
彼女は日本ではほとんど人気も評価も無いようですが、現在までにアルバムを14枚リリースしており、グラミー賞を3度受賞。映画やミュージカルにも多数出演していて、エミー賞3回、ゴールデングローブ賞4回、ミュージカルのトニー賞を2回受賞しているとのこと。アメリカのショウビズ界では名実ともに絶大な人気と実力を持つ「大御所」なのです。
このデビューアルバムは、現在もライブでのセットリストに必ず入る曲がいくつも含まれていて、彼女の原点となるものです。
他でおすすめは1976年発売の3枚目、
”Songs for the New Depression”(ベットミドラーⅢ)ですね。
帯の黄色い文字を読んでいただければお分かりと思いますが、ロックやファンクのアーティストとの意外なコラボも楽しめ、佳曲揃い・緩急自在で聴き飽きることがありません。
呼び物はフランク・シナトラが歌ったスタンダードナンバーを、またも大胆にディスコミュージックに仕立てた「夜のストレンジャー」ですかね。
他のおすすめCDやヒット曲としては、1989年に主演した映画「Beachs(邦題:フォーエヴァーフレンズ)」から、グラミー最優秀レコード賞を受賞した名バラード「Wind Beneath My Wings(邦題:愛は翼にのって)」があります。
また、1990年のアルバム”Some People's Lives”から、全米NO.2まで上がった” From A Distance”なども、味わい深い名曲です。
こんなに実力のあるエンテーテイナーのBette Midlerが、何故日本で人気が無いか? まず一つは彼女は「アメリカが生んだ“来日しない”最後のシンガー」だということ。
残念ながら、今まで一度も日本に来てくれません。仕事の主戦場はハリウッドやブロードウェイ、ラスベガスの高級ホテル等であるようです。
ライブ・コンサートの演出では、歌の合間に寸劇やスタンダップコメディをやることが多く、機関銃のような早口で、ニューヨークのスラング交じりの英語を、時々放送禁止用語を挟んでまくしたてる場面があり、ネイティブ・ニューヨーカーなら大爆笑なのですが、他の国で、まして日本でそれが受けるとは到底考えられないでしょう。
そして残念ながら、日本人好みのスラリとした「美人」ではないこと・・・かな。日本人は「見た目が8割」ですからね・・・・。デビュー盤はあのようなアメリカンノスタルジー調だったし、芸風・キャラクターが少々「お下品」ですから。でも笑顔がとても可愛らしい、本当に才能あふれるパワフルなおばちゃんです。
ちなみに・・・1985年には、スタンダップコメディのその部分だけのCD ”Mud Will Be Flung Tonight” が発売されています。(国内盤は無いと思います)
私は「まだ手に入れていないライブCDがあった」と思ってAmazonで購入したのですが、プレーヤーにかけてみて驚きました。約40分間収録されたCDすべてが”しゃべくり”だったのです。もちろん私には何を言ってるかさっぱり分かりません。
”Mud Will Be Flung Tonight” というタイトルを意訳してみると、
↓「泥が投げられるであろう 今夜」
↓「今夜は泥を投げつけるわよ」
→「今晩あんたの顔に泥を塗ってあげる」という感じでしょうか。
きっと、セレブや政治家を皮肉る辛辣なジョークが満載のように想像しますが、理解できれば面白いのでしょうが、でもいくらファンでも、↑ これはおいそれと買ってはいけないCDでした。
さて、2000年以降のアルバムでは、ゆったりした傾向の盤を発表しています。こちらは2000年発売の”Bette”。
特にこれと言ったヒット曲はありませんが、ジャケット写真のイメージ通りの、上品でスッキリした好盤です。
その後は2003年にJAZZのローズマリー・クルーニー、2005年にペギー・リーのカバーアルバムなども出し、いよいよ落ち着いてきたのかなと思っていたら、2014年の最新アルバム “It’s The Girls”で、サプライズを届けてくれました。
これは彼女がデビューアルバムからやっている得意の「一人3役コーラス」の技を駆使した、歴代のガールズグループのヒット曲満載のカバーアルバムです。
ロネッツの”Be My Baby”から始まって、アンドリュースシスターズ、シュプリームス、マーサ&バンデラス、マーベレッツ、果てはTLCまで多彩です。おばさんこの時69歳! プロってすごいなあ。皆さんも興味がわいたら聴いてみてください。
こんなすごい歌手、二度と出て来ないと思います。彼女が引退する前にニューヨークかラスベガスへ行って、一度でいいから生のステージを体験してみたいなあ。
ではまた。